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其の五拾六 怒れる〈ライギョ〉の巻…富士市(富士川の防波堤)
怒

「けっこう、台風のあとなんかに釣れたりするんだけどなぁ」と、
かつての富士川で「大物」と呼んだのは、〈コイ〉と〈ウナギ〉に、そして〈ライギョ〉だった。
 
 
 子供のころ……と、それはつまり小学校からせいぜい中学校に入学するまでのことだろうと、勝手に想像するのだが。
 富士川で当たり前に釣れたのは、まずは「カージー」と呼んだ〈カジカ〉と〈ハヤ〉とウナギの幼魚である〈メソッコ〉と〈カワエビ〉などで、〈ウグイ〉が釣れれば、まずは「大物!」と呼んでいたのだ。
 もちろん〈フナ〉や〈コイ〉も釣れたが、ウグイやハヤ同様、持ち帰っても誰も喜びもしなければ、まして褒められるることなどなかった。
「どうせなら、ハゼやカレイでも釣ってくればいいのに!」と言われるが、そうなると富士川の河口まで行かなければならないのだ。
 もちろん河口まで行けば、〈ハゼ〉はもとより〈カレイ〉やスズキの幼魚の〈フッコ〉や〈ボラ〉なども狙えるのだが、何度か遠征しはしたものの、どうしても帰りが遅くなって叱られるのがオチだったのである。
「やっぱり近場がいちばんさや!」
 と、半ば諦め気味の釣り場であれ、まかり間違えば「コイでもウナギでも、なんでもござれ」の富士川だった。

 そしてあるとき、人伝に聞いた「誰かがライギョを釣った!」と、その話で持ちきりになり、「餌は、どうも〈アマガエル〉らしい」となれば、捕まえたアマガエルをポケットに何匹も突っ込んで「気持ち悪いよなぁ」と文句を言いながらも、いきなり足の指先から引き裂いてハリに刺すものもいれば、コンクリートに叩きつけてノックアウトしたアマガエルをハリに刺すものもいた。
 そして竿を弓月に曲げ、ドタバタとやりとりをした挙句に引き上げたのが四十センチあまりの〈ライギョ〉だったのである。

其の五拾六 怒れる〈ライギョ〉の巻…富士市(富士川の堤防)_d0084315_1412230.jpg


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「こいつ、気持ち悪いよなぁ!」
 ハリ掛かりさせたのは、鎌塚という、弟よりもさらに一級下の小学三年生だったが、とりあえず一番上の店主が「耕海ちゃん、なんとかしてくりょう!!」と言われれば、そりゃなんとかするしかない。
 たしか中学一年になったかそこらの時期だったと思うのだが、釣り上げるなり「やたらと気持ち悪いけど、なんか触らないほうがいいみたいだぞ!」と、みんなで遠巻きに見ていたのだ。
 見た目からし気味悪いような、やたらと太くて、蛇みたいな柄だった。しかも癇癪でも起こしたように、バタバタ、バタバタと、やたらと煩かった。
「これって、サカナなの?」
「わかんねぇ…もしかしたら、ヘビの仲間かもな」
 茶色っぽくて紫色みたいな色よりも、やはりその模様が問題だった。
「気持ち悪いねぇ」
「触るとカブレるかもしれねえぞ」
「捨てちゃおうか?」
 なんだかんだと騒ぎながらも、拾い集めた棒っ切れでなんとかバケツに放り込んで、家に持ち帰ったのだ。

「ええっ、逃がしてこいだってぇ!?」
 誰もが見たことも、まして食べたことすらない〈雷魚〉だからって……そりゃ、たしかに雷の魚って漢字じゃ書くかもしれないけど、「せっかく釣ったのに!」と、結局近くにある〈大川〉にみんなで放流したのだった。
 やがて、中学校の校門のそばにある池に、誰かが寄贈した二匹のライギョが放たれることになったのだが、わずか数日後にもともと飼っていたキンギョやフナなどが、ライギョに食べられてしまうという〈事件〉が起った。
「やっぱり、あのライギョは逃がしたほうがよかったんだ!」
 みんなとそう話した数日後に、今度は誰かがライギョを盗みにきて、一匹だけが池に外に放り出されたまま生きていて……と、またまた大騒ぎになったのだった。
「川魚は、刺身じゃ食えないけど。ライギョは食べられるし、白身でけっこう美味いんだって?」
 ええ、ほんと? ……だから、夜中に獲りにきて、一匹だけ落としたらしいんだけど……ライギョは生命力が強いから、朝になっても生きてて池に戻したら元気よく泳ぎまわって……なんか身体にもいいらしいよ、元気が出るとか。
 などなど、まことしやかな噂が一人歩きしたのが、店主たちの母校でもある富士市立富士南中学校の『ライギョ伝説』である。
 脳裏には釣り上げたときの、文字通り〈雷魚〉という名の如き気味は悪いような体の斑模様と、怒ったようにひと番中飛び跳ねていた姿が浮かぶのだが、当然の如く一緒にライギョを釣り上げた数人で大川のライギョ探しに奔走したが、結局徒労に終わりはしたものの……店主は、今でも信じているのである。
 あのときのライギョは、きっと卵を産んで、その後何代にもわたって……それこそ、古代魚そのままに生きながらえたシーラカンスのように、ライギョの子孫が大川の守り神として泳ぎまわっているはずだと。


●ライギョ(雷魚)
スズキ目・タイワンドジョウ科に属するカムルチー Channa argus を指す日本での呼称だが、広義にはタイワンドジョウ科 Channidae に分類される魚の総称としても用いられる。和名に「ドジョウ」の名があるが、コイ目・ドジョウ科に分類されるドジョウとは全く異なる。細長い体とヘビに似た頭部から、英語では"Snakehead"(スネークヘッド)と総称され、釣りや観賞魚の愛好家はこちらで呼ぶことも多い。日本には自然分布していなかったが、カムルチー、タイワンドジョウ、コウタイの3種が移入され、各地で外来種として定着している。
(出典=フリー百科辞典「ウィキペディア」より)



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店主 魚畑耕海
(青山漁業狂動組合・横浜支部 調理長※)
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  ※店主は、未だ調理師免許がないために〈料理長〉とは名乗れません。


其の五拾六 怒れる〈ライギョ〉の巻…富士市(富士川の堤防)
by mitsu-akiw | 2008-02-03 16:10 | 本編<釣魚食善>
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